経絡とは?

経絡に明快な説明を

経絡を、生理学的にも矛盾のない、測定可能な現象として説明しています。
生理学(現代医学)と結びついた説明が可能になると、臨床にも活用しやすい=治療プランが立てやすいという大きなメリットが得られます。
具体的には、「経絡はホメオスターシスの部分的な崩壊=間質液の量や質の変化」と考えています。
この考え方は、実際の測定データに基づいたものです。
ここでは、このサイトが経絡をどのように考えているか、なぜそのように考えるのか、概要を説明しています。
それぞれのコンテンツを読んでいただく前に、全体像として読んでいただければと思います。

経絡の盲信 (問題提議)

経絡や気を、宇宙のエネルギーなどと説明する人がいます。
エネルギーというのなら、物理的な測定が可能で、J(ジュール)などの単位はあるのか?と、電気工学科出身の私は考えますが、そんな説明はしてくれそうにありません。あいまいにエネルギーと言っているだけです。測定機器を用いている、というグループもあるのですが、なぜ宇宙エネルギーが測れると言えるのか?という説明はもちろん、測定原理すら明確に紹介されていません。
これらの説に固執することは、経絡や気という言葉に負ぶさって、矛盾した自説を権威付けしているかのようです。
(経絡や気を解明する、という本来の目的とは反対です。)

また、経絡や気を、交感神経の緊張と説明している人もいます。
良導絡や皮電計として知られる考え方ですが、1970年代(もう30年以上も前!)に、生理学会から否定されています(交感神経が緊張しているはずの立毛筋緊張部位で、良導絡測定が高い値を示さなかったなど、矛盾を指摘されましたが、未だに回答はありません)。
良導絡についていえば、交感神経の緊張部位(電流が大きい部分)を治療していたはずなのに、その後、交感神経が抑制している部分(電流が小さい部分)も治療するようになりました。この矛盾についても、説明されていないままです(交感神経だけに固執せず、矛盾に対して回答を与える、良導絡を発展させた理論が必要です)。

こんな説明を繰り返していては、だれも経絡や気という言葉を顧(かえり)みなくなるでしょう。

本当に必要な作業は、具体的で明確な測定内容から、経絡や気という言葉で説明された現象を、現代医学的に理解することです。

経絡の解釈 (提案)

では、このサイトでは、経絡をどのように理解しているでしょうか?

皮膚の測定から、経絡や気の虚実は、細胞外液の異常=局所的な脱水症状をさしていると考えています。

虚は、塩分濃度が低く、冷えや機能低下を起こす「低張性脱水」と考えられます。
実は、塩分濃度が高く、発熱や興奮状態を起こす「高張性脱水」と考えられます。

これらの考えは、実際の測定結果から得られたものです。
皮膚にパルスをかけて、間質液の多い真皮層の物性を測定すると、上記のような間質液の水分量やイオン濃度などを推測できます。
身体の部位ごとに、低張性脱水が推測されたり、高張性脱水が推測されるデータが得られるのです。

経絡と脱水症状

脱水症状は、イオン(おもにナトリウムイオン)の濃度によって、3種類に分類できます。
それぞれの症状を比べてみると、低張性脱水=虚傾向、高張性脱水=実傾向、という考え方に納得していただけると思います。

低張性脱水(虚傾向)とは?

下痢・嘔吐などにより、水分の喪失以上に電解質の喪失が著しい状態で、血漿中の電解質濃度および血漿浸透圧の低下をともなう。また、発汗や下痢嘔吐などの体液喪失に対し、(イオンを含まない)水のみを補充し続けることで容易に陥る。
初期には、発熱や口渇感を伴いにくく、皮膚・粘膜の乾燥も少ないため、自覚症状が少ないが、進行すると全身倦怠感や眠気がみられ、手足は冷たく脈拍が弱くなる。身体は体液の塩分濃度よりも体液量を保持することを優先するため、塩分不足にも関わらず水分補給を優先するため、発症しやすい。主に細胞外液の減少による症状である。

等張性脱水とは?

イオン濃度は変わらない等張性のまま、体液が減少する。
通常は口渇感のため水分のみを摂取するため(電解質は補われず)、低張性脱水に変化しやすい。

高張性脱水(実傾向)とは?

発汗の亢進、水分摂取の極端な低下などにより、水分だけが不足した状態である。
自分で水分を摂取できない乳幼児や高齢者に多い。発熱と著しい口渇感を伴い、口腔などの粘膜が乾燥する。
意識は保たれるが不隠・興奮の状態となる。手足は冷たくならず、脈拍もしっかりと触れる。

こうした症状が全身的に起これば、全身的な虚実となり、部分的に起これば、経絡の虚実となるわけです。
経絡=協調運動する筋肉群(伸筋群や屈筋群など)や、血管、神経などに沿って、疲労や緊張が持続すると、老廃物の蓄積や血流の変化などから、部分的なホメオスターシスの崩壊=脱水=虚実が起こる。
そう考えると、虚実の説明が生理学的に可能になってくると考えています。

細胞外液=血漿+間質液

弱い部分(虚)とは?

弱っている部分(虚)では、水分の不足や、イオンの不足がみられます。
たとえば、肺が弱い人は、肺と関わるツボで、水分やイオンの不足がみられます(おもに指先の経穴(ツボ)=井穴で測定しています)。
水分やイオンの不足は、細胞の外側にある水=間質液で起こると考えています。

栄養や酸素は、水にのって移動する

人体の60%は水分です。そのうち、細胞の内側の水(細胞内液)が40%、血液は5%です。残りの15%は、血管の外側で、細胞を取り巻く間質液と呼ばれる水です(右図)。
血液(血漿)の3倍の水が、血管の外側にあります。血液が運んだ栄養や酸素は、血管の外側の水=間質液を通じて、細胞に引き渡されます。

水の不足=代謝の停滞

細胞の内側の水(細胞内液)は、あまり変化しません。血液も、量や質が厳密に管理されています。
しかし、細胞と血管の外側の間質液は、量も質も変化しますし、体の中で偏りが起こります。実際に、皮膚(真皮層)を電気的に測定すると、間質液の量や質が偏っているようすが推測できます。
間質液が不足すると、酸素や栄養がスムースに受け渡せなくなります。

水の不足には種類がある

間質液が不足するとき、イオン(おもにナトリウムイオン)の過不足が生じます。
イオンが不足(低張性脱水):冷えて、機能が低下します。
イオンが過剰(高張性脱水):発熱し、興奮状態になります。
実際に、皮膚(真皮層)を測定すると、イオンが過剰でゴリゴリとした痛みがあるところと、イオンが不足して冷えたり無力化しているところがあります。

鍼灸による治療

普段から間質液の異常があると、症状も慢性化しています。
こうしたツボを、姿勢の確認や触診、皮膚の測定で確認し、鍼や灸で改善します。
鍼で自律神経の緊張を解いたり、温灸で血行を改善することで、水分が不足したり、イオンが不足した部分の、新陳代謝を改善すると考えられます。

経絡と自律神経

自律神経はなぜ緊張する?

自律神経は、生体内を一定に保つように、調整する(命令を送る)神経です。
もし、生体内が一定に保たれていれば、過剰に緊張することはないでしょう。
自律神経が過剰に緊張するのは、生体内の異常に対処しようとしているから、と考えるべきです。

生体内の状態≒間質液の状態

怪我や炎症もないのに、痛んだり冷えたりするのは、生体内の状態≒間質液の状態が悪いからだと考えられます。間質液の状態が悪いと、自律神経の緊張が起こり、改善を促すはずです。しかし、過労などの理由で自律神経も失調すると、血液循環の異常を引き起こします。そして、血液循環が悪くなると、間質液の状態がさらに悪くなります。(右図)。

悪循環を断ち切る

悪循環を断ち切るために、鍼で緊張を解いたり、お灸で血行を促して、間質液の状態を改善します。
筋肉はエネルギー代謝(化学変化)を活発に行えるよう、水(間質液)を大量に含んでいるため、水の異常が起こりやすいと考えられます。筋や腱にツボが多いのは、筋肉の緊張を解き、水の異常を改善するためでしょう。また、皮膚への刺激だけで効果が得られるのも、神経を介して、血行を改善するためだと考えられます。

診断に用いたのは、水の異常

東洋医学が発達した二千年前は、まだ神経の知識はありませんでした。
このため診断方法は、皮膚の変化=浮腫んでいるとか、(水が枯れて)凹んでいるとか、色つやや、湿りぐあいなどが中心になったと考えられます。おもに皮膚の水の異常を診て、代謝が悪そうだから、突っついてみよう、温めてみよう、となったわけです。
現代の知識なら、治療効果は自律神経や血液循環によるものだと説明できますが、二千年前に症状の原因として診断に用いたのは水の異常(による皮膚の変化)だったと考えられます。

経絡と気 その始まり

「気」は、「氣」の略字です。
雲を表す「气」と、食べ物を表す「米」で、「氣」になります。雲は空気が固まった姿だと考えられていたので、吸い込んだ空気と、炭水化物が合わさったもの=食物の燃焼によるエネルギー生産が「氣」の基本と考えてよいでしょう。
また、「氣」という字は、もともと客に芻米(すうまい)を饋(おく)るという意味で使われ、客に米と馬のまぐさ贈るというのが本来の意味でした。食すれば元気が出る、エネルギーが充満するという、現代でいうエネルギーにはなはだ近い概念であるといえます。(参考文献 『陰陽五行説』 薬業時報社 根本光人監修)

ところで、上に書いたエネルギーというのは、細胞レベルでの炭水化物の燃焼です(これなら具体的で現実的な説明です。単位だってKcalとして明確に説明できます)。細胞の活動には、細胞内外の膜電位のため、ナトリウム(Na)やカリウム(K)のイオンが必須です。
さらに、酸素と糖分、各種タンパクなどの栄養が必要になります。(下図)


このように考えれば、気とは「細胞の活動」であり、それを支える「間質液の状態」である、と言えます。

東洋医学では、間質液に影響を与える要素を五つに分け、体質分類をしたと考えられます。
また、これらの要素に沿って、自律神経や内分泌による制御も分類していると考えられます。

こうした視点に立つと、東洋医学の古典にみられる気の概念が、すっきりと整理できます。

経絡を用いた治療の変遷

鍼灸では、「健部誘導法」と「患部誘導法」という考え方があります。
例えば、捻挫による浮腫を、周囲を刺激することで健康な部分に逃がすのが「健部誘導法」です。逆に、直接患部を刺激することで、患部へ血行(とともに間質液)を導き、代謝を促すのが「患部誘導法」です。

浮腫や内出血を代謝させることは、血液を循環させること自体とは異なります。
実際、鍼灸の原典(馬王堆文献や黄帝内経)が完成する前は、血脈を治療すると表現されていましたが、鍼灸が発展した後は、皮膚の観察から「経絡」という表現に改められました。
この経緯は、鍼灸が血液循環以外の視点を持つようになったことを示しています。

そこで、皮膚のうち、間質液が豊富な真皮層のようすを、微弱なパルスで調べています。
真皮層の間質液の量や質を調べると、虚(機能停滞)や実(機能亢進)と呼ばれる状態が、よく推測できました。例えば、間質液が不足したり、イオン濃度が低い場合、機能の低下や冷えがみられました。(部分的な低張性脱水と考えるとわかりやすいでしょう。)

虚実の詳細

間質液のNaイオン濃度は、生理食塩水と同じ0.9%です。
脱水症状の時、点滴で水分を補うときに、生理食塩水を基材としたリンゲル液などを用います。
脱水症状は、Naイオンの濃度によって次のように分類されます。



○ 低張性脱水(おもに電解質の不足)
下痢・嘔吐などにより、水分の喪失以上に電解質の喪失が著しい状態。
全身倦怠感や眠気がみられる。
手足は冷たくなり、脈拍が弱くなる。

体液喪失に対し、水のみを補充し続けることで容易に陥る。

○ 等張性脱水(水分と電解質の不足)
口渇感のため、水分だけを摂取してしまい、低張性脱水に変化しやすい。

○ 高張性脱水(おもに水分の不足)
著しい口渇感を伴い、口腔などの粘膜が乾燥する。
意識は保たれるが不隠・興奮の状態となる。
発熱し、手足は冷たくならない。脈拍もしっかりと触れる。
発汗の亢進や、水分摂取の極端な低下などにより、水分が不足した状態である。
自分で水分を摂取できない乳幼児や高齢者に多い。

東洋医学を勉強された方なら、下線部分が、虚実と言われる状態によく似ていることに気が付くでしょう。
低張性脱水で機能低下が起きている個所は虚、高張性脱水で発熱や興奮が起きている個所は実、と考えられます。
こうした状態は、例えば特定の筋肉だけ多用し、そこだけが熱くなったり冷たくなった場合を考えるとわかりやすいでしょう。

皮膚の測定から、人体では部分的に各種の脱水症状が起こっていることが推測できます
今までにも、脱水症状や疲労物質の蓄積が偏って起きることは知られていましたが、そのようすを推測(測定)する手段がありませんでした。
しかし、皮膚の測定から、その偏りのようすを推測できるようになったのです。

経絡と細胞膜

間質液のNaイオン濃度は、生理食塩水と同じ0.9%です。
脱水症状の時、点滴で細胞外液(間質液と血漿)を補うために、生理食塩水にカリウムやカルシウムなどを加えたリンゲル液を用います。

すべての細胞は、細胞膜の内外でイオンの不均衡を作り、電位差を維持しています(イオンポンプ)。
そして、この電位差によって、物質の取り込みや排泄を行っています(イオンチャンネル)。
細胞膜が能動的に作り出すのは電位差だけで、栄養や酸素の授受は電位差によって受動的に行われます。

しかし、膜の外側でナトリウムイオン(Naイオン)の過不足があると、この電位差の維持が難しくなり、過剰であれば発熱や興奮(高張性脱水症状)、不足すれば冷えやだるさ(低張性脱水症状)を起こします。

間質液は、アミノ酸・糖類・脂肪酸・コエンザイム・ホルモン・神経伝達物質・塩分および細胞からの老廃物を含んだ水溶液です。さまざまな物質が、細胞の周りを取り囲んでいますが、その取り込みや排泄は、ナトリウムイオンやカリウムイオンの調整が前提なのです。

間質液の調整を行うのは、腎臓(と副腎)です。
東洋医学は腎を重視しています。腎の働きが充実していないと、元気が出ないと説明しています。
気を「細胞の活動」や「間質液の状態」と捉えると、こうした人体観もよく説明できます。

東洋医学でいう腎は、細胞膜電位の働きと、それに関連する間質液、腎、副腎、さらに副腎に影響を与える交感神経やACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の働き全体を指している、と考えてよいでしょう。

経絡とトリガーポイント

鍼灸分野で有名な、トリガーポイントという学説があります。

この研究の中で、脊椎の棘突起間に6%の食塩水を0.1〜0.3ml注射して、広い範囲に痛み(関連痛)を引き起こすという実験がありました。間質液のナトリウムイオン濃度が高張になると、痛み=過剰な興奮が発生する、というわけです。

現在では、トリガーポイントの成因として、組織損傷にともなう筋の局所的拘縮や深部組織における浮腫の可能性が高いと考えられています(やはり、浮腫=間質液の異常が、トリガーポイントの成因として考えられています)。
こうした箇所に、鍼を刺して神経の興奮を麻痺させると、自律神経の興奮も緩和され、血行やリンパ管の働きが改善されるので、間質液の異常が改善される、と考えられます。

間質液(生体内環境)の異常と、神経(知覚神経、運動神経、自律神経)の異常興奮は、ニワトリとタマゴのように、お互いが原因となりますが、どちらかを治せばもう片方も治る、ということなのでしょう。



また、間質液を調整することで、神経の興奮を改善している、と考えられる治療もあります。
例えば、直接的に間質液の過不足を是正する治療として、捻挫による内出血(浮腫)周辺への灸があります。
患部ではなく、その周辺に灸をすえると、患部の間質液が周辺に代謝され、痛みが引きます。

間質液の量の改善から、神経の興奮を鎮める例としては、他にも漢方薬の苓桂朮甘湯の例があります。
水分代謝を改善する茯苓や蒼朮が主剤ですが、頭痛やめまいを治すことで知られています。

苓桂朮甘湯の効果が理解できると、鍼灸で頭痛(偏頭痛)を治すとき、なぜ足に鍼を打つかも理解しやすくなります。
下半身の交感神経緊張を緩和し、足の血行を促進することで、頭部で過剰になった血行(間質液)を下半身に逃がす、と考えられます。(自律神経の緊張が、上下半身で拮抗することを活用しています。)

先天の気と後天の気

成人の体内で、水分が占める割合は60%程度といわれています。
このうち、細胞内液(細胞の内側の水)は40%、細胞外液は20%です。

しかし、胎児は水の割合が高く、体内に占める割合は80%と言われています。
さらに、細胞内液より細胞外液のほうが多いことが知られています。
単純に考えれば、胎児の細胞外液は40%以上となり、成人の2倍もの量になります。
乳幼児も細胞外液が多いままです。必要とする水分が多いため、赤ちゃんは容易に脱水症状(細胞外液の欠乏)を起こします。



細胞外液は、細胞の生活環境そのものです。
細胞外液が豊富なことは、赤ちゃんの細胞の活動が活発なことと関わりが深いでしょう。

細胞外液の調整、特に電解質(ナトリウムイオン)の調整は、腎臓と副腎によって行われます。

子供の腎臓は、体内での割合が、大人よりも大きいことが知られています。
幼少期は大人よりも細胞外液が多いので、調整装置(ろ過装置)も大きいわけです。

しかし、加齢と共に副腎は変性していきます。
幼少期、性的成熟期、高齢期と、副腎は変性していき、水分の調整能力が変わっていきます。

こうした事柄をまとめると、東洋医学で言う腎は、腎臓(と副腎)が調整している細胞外液(間質液)、それも電解質(ナトリウムイオン)の働きと考えたほうがよいでしょう。
腎を補うために、腎兪(腎臓の高さにある背部のツボ)を温めるのは、腎臓自体を補うためではなく、腎臓の働きをよくすることによって、間質液の改善を行っている、と考えられるのです。

臨床経験(皮膚の測定)から、腎経(経絡)に反応が現れる人は、腎の働きが弱い人が多いと考えています。
腎に両親の生命力=先天の気が宿ると考えられたのも、腎(が調整する間質液)の働きが胎児〜乳幼児の時期には充実しているから、と考えられるでしょう。

夏は長じ、冬は蔵す

経絡を巡る気には、「春は生じ、夏は長じ、秋は納め、冬は蔵す」という性質があるといわれています。

真皮の間質液を流れる電流量が、一年間でどのように変化するか調べると、右図のようになります(縦軸のBPは電流量を示します)。
真皮の中を流れる電流量の変化は、真皮層の水分量の変化によって起こるだろうと考えられています。

この図でみると、だんだん気温が上がってきて草木が新葉を出す4月ころに真皮の間質液が増え始め、また、気温が下がってきて落葉する11月ころに間質液が減り始めるようすがわかります。

古代の中国人たちは、皮膚からの熱放散や発汗のようすから、「春は生じ〜」といった表現をしたのでしょう。そのようすは、真皮の間質液の状態として、実際に測定できるのです。

詳しくは、論文「矩形波応答による経絡の研究(1) 初期電流量の測定」をご覧ください。

虚実の種類

経絡の虚実は、部分的なホメオスターシスの崩壊と考えられるわけですが、そこには二つの意味があります。

1)細胞外液(間質液)の量の変化
  水の量自体が増えたか減ったか
2)細胞外液(間質液)の質の変化
  イオン濃度が高いのか低いのか

虚実を推測するために、それぞれの経絡の測定点を決め、健常者の平均値を調べ、患者さんのデータと比較します。
しかも、上に挙げた二つの情報について、多角的に調べて結果を出す必要があります。
(さらに、交感神経の緊張についても、別途調べることができます。)

虚実は決して単純な現象ではなく、複合的な現象なのです。このため、右図のように各経絡について複合的な評価が必要になります。

補足
良導絡は、交感神経の緊張(皮脂分泌による表皮の変化)だけでなく、真皮層の間質液の状態とも関わる測定値になっていただろうことを、統計的に確かめています(詳しくは、論文「良導絡の測定内容に関する、AMIによる考察」をご覧ください)。
良導絡は、60年前に手に入れられた簡素な道具だけで、測定と分析を可能にした、素晴らしいアイディアだったと思います。電気工学科出身の私は、中谷義雄先生を発明家としても大いに尊敬しています。その後、基礎研究がなかなか進まなかったことは、大変残念だと思います。
上記の論文は良導絡学会の重鎮だった故・成川洋寿先生のご指導のもとに2009年に作成しました。
良導絡で研究されていた先生方のお役に立てれば幸いです。

経絡の意義

経絡は、「どうすれば治るか?」という鍼灸の Know-How の根幹です。
これに対して、ここまで説明してきたことは「どんなふうになっているか?」という Knowledge です。
( Knowledge は「知識」と訳されますが、Know-How は実際的能力、;技術、技術情報と訳されます。)

日常よく臨床で見かけるものですが、イオン濃度が高く圧痛があるとしても、水分が集まっている場合はボワッと膨らんでいることが多いのですが、水分が減少している場合はコリコリとした硬結が多く症状も強い、という反応の違いがあります。

イオン濃度が多くても水分が多い場合は、新陳代謝が高まって自ら補修できる、ということでしょう。
これに対して、水分が少ない場合は、新陳代謝が停滞して自然には治癒できなくなっている、と考えられます。
トリガーポイントとして知られるような、コリコリとした硬結は、後者のほうに当たると考えられます。

こうした Knowledge も、治療方法の Know-How が無ければ、症状改善に結びつきません。
一箇所で反応が出ていれば、経絡に沿って、もしくは、経絡と関わる背部兪穴・胸腹部募穴で反応が出ていて、高い効果を得られる治療点を探しやすい、という経絡の Know-How を活用してこそ、Knowledge に価値が出るといえるでしょう。

(漢方薬(湯液)の Know-How は、それ以前に発達した鍼灸=経絡の Know-How を基礎としています。このため、鍼灸=経絡が用いた五臓六腑の分類を、漢方薬の原典=傷寒論も用いています。次の「営衛の調和」に見られるように、漢方薬の理論は鍼灸=経絡の理論に立脚しているものが多く、的確な処方のためには経絡の虚実を理解する必要があるといえるでしょう。)

営衛の調和

鍼灸では、営衛の調和を重要視しますが、生理学的な説明はなされていません。
湯液でも、営衛の調和は重要で、基本処方の桂枝湯の効能が「調和営衛」であるのに、説明がなされていません。

古典などにみる営衛(営気と衛気)の説明は、おおむね次のようになっています。

営気

営は、(胃、脾より)脈中に入り、血とともに全身を周流して、身体を構成するありとあらゆるものに栄養となって供給され、人体を養う。(霊枢:営衛生会篇、営気篇)
営は人体の基礎的な栄養物質で、その働きは血と不可分の関係にある。営の循環が渋滞して血脈が空虚になると、経脈や皮膚、筋肉の栄養が不足し、麻痺症状が起こり、また、病邪が血脈をおかせば、営気の運行が不順になり、血液も局部の筋肉内に停滞し、浮脈(ふみゃく)などの病変が現れてくる。
全体から、営気は脈中(血管内)を営(めぐ)る血漿という印象を受けます。

衛気

衛は、脈外を流れて、皮膚や筋肉の間を巡り、五臓六腑の隔膜を霧のように潤し、胸膜に散り広がって、身体を防衛、保護する。(素問:痺論篇)
衛は、まず筋肉を温め、皮膚を潤してつややかにし、肌に栄養を与える。漢方医学では、つややかで光沢のある肌は健康体のシンボルとされる。さらに、衛は、汗腺の開閉を管理し、自然環境に対する人体の適応能力を調整したり、外部からの病邪の侵入を防ぎ、これを除去したりする。
全体から、衛気は脈外(血管外)に満ちている間質液と、皮膚の働きという印象を受けます。

皮膚(真皮層)の間質液は、「春は生じ、夏は長じ、秋は納め、冬は蔵す」(素問:四気調神大論)という表現のとおり、春から夏に増加し、秋から冬に減少します。体表観察が診察の中心だった時代は、間質液の体表(真皮)での働きや変化が、概念の中で大きな割合を占めていたのでしょう。このため、体表を守る「衛気」という言葉を用いたと考えられます(このほかにも、営衛という分け方が、兵法としてあったという説もあります。しかし、単に内と外という分け方をしたにしては、「脈外を流れ」といった別の意味合いが多く含まれています(*))。

実際の治療では、営気(血流)を増すことで衛気(間質液)の不足を補ったり、衛気(間質液)の異常箇所を治すことで自律神経の過剰な興奮を治め営気(血流)を改善する、といった(経絡の)調整が行われます。

まとめると、細胞外液全体=血漿+間質液の循環を改善し、新陳代謝を正常化することが「営衛の調和」と考えられるのですが、温熱刺激で血流を促進したり、間質液のイオンの過不足による自律神経の興奮・抑制を金属性の鍼でリセットするなど、方法としてはさまざまなため、理解しづらいというのが実情だと思います。

このサイトの各ページの左上に描かれている画像(左図)は、右端の赤い部分が血漿、真中の青い部分が間質液、黄の部分が細胞内液を示しています(面積比が、実際の量の比率になっています)。

経絡を間質液として説明すると、「営衛の調和」といった東洋医学の人体観全体の説明も容易になるという考えをこめて、このような図を用いています。

(*:概念の変遷の中で、「脈」が血脈と経脈を混同し、営衛(霊枢)が清濁(素問)と混同したことが伺える。)

経絡の調整

繰り返しになりますが、経絡の虚実の調整には、温熱刺激などで血流(営気)を増す方法もあれば、金属製の鍼による興奮のリセットもあり、診断には(おもに)間質液(衛気)の過不足や質的変化が用いられていたと考えられます。
もちろん、皮膚だけでなく、その下の筋肉で間質液(衛気)や血流(営気)の異常が起こり、硬結や無力化、冷えなどがみられれば、これも経絡の診察や治療の対象になっています。

発現機序が複雑で、さまざまな現象を含んでいますが、生体内環境(間質液)の異常として捉えれば、経絡は包括的に考えられる現象(概念)です。

血管や神経のような管は何も無いのだから、経絡など有り得ない、という人は、海の中に管が無いから海流なんて有り得ない、と言っているようなものです。
筋肉、血管、神経、それぞれの影響を受けて、間質液=生体内環境の異常は伝播します。この異常の伝播こそが経絡と考えれば、原因は多様でも現象としては包括的に論じることができるでしょう。

もちろん、鍼灸治療のすべてに、経絡=真皮の間質液の異常が関わるとは思っていません。
経絡の異常が見られない場合もありますし、私はそのような場合、特殊な治療法で効果を得ています。
例えば、五十肩などで、経絡の異常が見られない場合、赤羽幸兵衛先生のシーソー理論に基づいた治療=巨刺(繆刺)を用いて良い効果を得ています(逆説的に言えば、このように分類していけば、巨刺(繆刺)などの特殊な治療法の適用もわかってくると思っています)。

間質液の測定法

瞬間的な電圧をかけると、皮膚には二種類の電流が流れます。

最初に、水分の多い真皮内を電流が流れます。この電流は横向きにたくさん流れます(図中の赤い電流)。
次に、電気の通りづらい表皮(基底膜)を抜けるように電流が流れます。

私たちは最初に流れる電流を解析し、真皮の間質液のようすを調べています。電流の大きさや、変化の速さから、水分の量や質を推測しています。

有名な良導絡は、2番目の電流を測定しようとしたのですが、電圧が高すぎるなどの理由からか、表皮の状態だけでなく、真皮の状態にも影響を受けてしまい、測定内容が明確ではないようです。
(詳しくは、論文「良導絡の測定内容に関する、AMIによる考察」をご覧ください。良導絡の問題点を指摘していますが、否定しているのではなく、新たな研究の可能性を提案しています。)

測定の問題点

最後に、自らの問題点についても指摘しておきます。
私が用いている経絡の測定方法は、本山博先生(心理学博士・哲学博士)が赤羽幸兵衛先生の知熱感度測定を精査する中で発展したものです。このため、知熱感度測定と同様に、指先の経穴=井穴で経絡の測定を行っています。
メリットとして、測定部位がすぐにわかるので誰にでも測定でき、服を脱がなくても測定できるという、簡便性があります。

しかし、定点測定をするだけなので、いわゆる「ツボ発見器」のような使用法はできません。真皮の厚みは、背部では厚いなど、もともと身体全体で違いがあります。このため、任意の点を測定すると、その部位はもともと間質液が多い(真皮が厚い)のか、異常によって増えているのかといった違いがわかりづらいのです。

経絡の虚実を推測するのには適していますが、直接的に治療点を探し出す機器ではないので、使用には東洋医学の基礎知識が必要=専門家向けのシステムといえるでしょう。
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