経絡の測定 症例集3

データの見方

症例は、「経絡の虚実」画面と、「反応点の推測」画面を用いて説明しています。
これら二つの画面は、同じ測定結果を、三陰三陽の順に並べたり、四肢末梢や背部兪穴の順に並べて、それぞれの規則性を分かりやすくしたものです。
「経絡の虚実」画面では、画面の左半分は全身の虚実を、右半分は経絡ごとの虚実を推測しています。
「反応点の推測」画面では、画面の左半分は四肢・末梢の反応を、右半分は躯幹の兪穴・募穴の反応を推測しています。それぞれの画面で、青い枠は虚傾向を、赤(紫)の枠は実傾向を示します。
虚実の傾向の強さは、100点満点で表示されます(虚傾向はマイナス表示です)。また、虚実の傾向が強いほど、青や赤(紫)の色が濃くなります。枠の上側(左端)の赤や黄色のタブも、傾向の強さを示します。赤いタブが最も傾向が強い経絡を示し、黄色いタブは次に傾向が強い経絡を示しています。

 「経絡の虚実」画面 (拡大

 「反応点の推測」画面 (拡大


症例1 膝痛

− 足の拇指の異常と、L4/L5神経根 −


■ 概要
30代後半男性。腰痛のため来院。2年前に、医師からL4/L5、L5/S1の椎間板ヘルニアと診断されている。当時は坐骨神経痛様の症状が出ていたが、今は腰が重く感じるだけ(SLRテストで陰性)。左でん部の外側がこる。
日本人女性と結婚して移住し、建築業に携わったが、腰痛のため休職していた。腰痛については、今までにも牽引、通電、整体などの治療を受けたが、改善しなかった。180センチを越す立派な体躯だが、足が細い。
■ 経過
初診時の「反応点の推測」から、左右の脾経で強い虚・寒が考えられた。
左足内側(肝経)と右足外側(胆経)に緊張がみられるので、体重が右側に片寄っている=左側をかばっている様子が伺える。
脾経の虚・寒を東洋医学的にみれば、消化器が弱っているか、思い悩んで気持ちが塞いでいるか、ということになる。この時点では、脾経の虚・寒が最も強い傾向を示していて、腰の問題よりも精神的な悩みのほうが、健康に与える影響が強かったように思う。右の心包経の虚からも、そうした傾向が予想された。
左足の緊張・こりを改善するため、左の行間と曲泉に円皮鍼、虚・寒を補うため、左右の脾兪と右の厥陰兪に浅刺と温灸を施した。また、局所治療として、L4/L5、L5/S1椎間関節部に灸頭鍼(1寸6分5番を2cm刺入し、釜屋もぐさ本舗製「温暖」を1個ずつ使用)を施した。


 初診時の「反応点の推測」
 (拡大

 左右の脾経の虚・寒が強い
 その他の経絡は、左右が揃って
 いない。

 左の肝経(股関節に関わる)の
 緊張やコリが強い。
 こうした緊張では、末梢の経穴
 に円皮鍼
を用いて、よい効果を
 得られている。




 2回目の「反応点の推測」
 (初診から1週間後)
 (拡大

 初診時に比べ、左右が揃って
 虚実を示す経絡が増えた。
 (左右差が改善されつつある。)
 また、緊張や虚・寒が弱まって、
 傾向を示すポイントの値が
 小さくなっている。
 症例集1の症例1にも書いたが、
 大腸経の虚・寒と肝経の緊張
 揃っている場合は、L4/L5の高さ
 に異常があることが多い。

■ 考察
指先(井穴)の情報は、経絡の情報としても活用できるし、神経の情報としても活用できる
特定の指で、緊張(皮脂分泌)や虚(間質液の電解質不足)、寒(間質液の不足)がみられる場合、当然、自律神経の異常緊張(もしくは弛緩)が推測できる。このため、デルマトームに従い、どの神経(神経根)が異常かを推測している(四肢末梢では、自律神経の枝が体性神経の枝に沿って走ることから、このように推測している)。
L4/L5の椎間に異常がある場合、この症例のように、デルマトームからみて該当部位に当たる足の拇指(脾経や肝経の井穴がある)に皮膚の異常が表れることが多い。また、興味深いことに、兪穴(経絡の治療穴)がL4/L5間にある大腸経にも、異常が現れることが多い。
経験的に、緊張がみられる場合は末梢に円皮鍼を、虚・寒がみられる場合は兪穴・募穴に浅刺+温灸を施して良い効果を得ている。
また、今回のように異常個所が深部の場合、灸頭鍼や鍼通電(鍼麻酔)を用いて効果を得られることが多い
私自身は、腰部には灸頭鍼、頚部には鍼通電(鍼麻酔)を多用している(次項を参照)。
■ 補足
末梢に円皮鍼を用いたり、神経根などの深部に灸頭鍼や鍼通電を用いたりすることは、関連痛と深部痛の治療を使い分けている、とも表現できる。緊張がみられる場合、関連痛の現れる末梢経穴の治療で深部痛を治せるし、虚・寒がみられる場合、深部痛と関わる背部兪穴を用いたほうが効果的、と分類できるだろう。
指先を測定し、虚実の種類(皮膚の反応の種類)を分析すれば、治療の幅が大きく広がることが想像できると思う。
足の拇指については、長拇指伸筋と長拇指屈筋の筋力によって、L4/L5、L5/S1のいずれに障害があるかを確かめる方法もある。しかし、私のつたない経験では、この筋力テストではっきりと違いが出るほど明確な障害の患者は少なく、皮膚の測定を参考にしたほうが実用的だと感じている。

症例2 頚肩腕痛

− 右肩を治すと、左肩が痛くなる −


■ 概要
30代後半女性。右の頚・肩・腕が全体的に痛む。
障害者福祉施設で働くため、腕や肩に負担がかかることが多い。
肩こりの患者の多くと同じで、この患者も「どこがおかしいのか」明確に説明できなかった。
症状は慢性的で、パソコン作業でも、荷物を運んだときでも、疲れれば悪化する。
事故やスポーツによる外傷は無く、これといったきっかけも無いという。

■ 経過
初診時の「反応点の推測」では、右の肺経(拇指)の緊張が強いが、ほとんどの経絡で左右が整っている。しかし、拇指=橈骨神経の支配領域で自律神経の異常があると推測できたので、C5/C6頚椎間の右側を指先で触れると硬結があり、「そう、そこ、そこがいつもおかしい!」という答えが返ってきた。
その後も調べていくと、C4/C5頚椎間まで硬結がみられた。こういう場合は、C5神経根と関わる神経(肩甲上神経、肩甲下神経、肩甲背神経)が支配する筋肉にも硬結がみられることが多い。
そこで、C4/C5頚椎間と附分、C5/C6頚椎間と魚際に、頚部をマイナスとして鍼通電(1Hz、20分)を行った。
翌週に2回目の診察をすると、「すごく良くなった!」と嬉しそうに言うものの、「今度は左肩がこる気がする」という困惑も訴えていた。(こういう例は少なくない。これを読んでいる治療家にも、経験のある方が多いと思う。)
実際に2回目の「反応点の推測」をみると、左側の肺経が実となっていて、他にも、左半身に虚や冷えを示す経絡が多数現れている。臨床で大切なのは、こうした状況が予測可能、観察可能で、制御可能なことを、データを示して患者に納得してもらうことだと思う。頚のように、身体の要になる部分を調整したのだから、一時的に左右のバランスが崩れていること、訴えどおりのデータが得られていること、3回ほど治療を継続することで、速やかに調整されることを説明すれば、患者からの信頼を失うことは無く、むしろ信頼を得られると考えている。


 初診時の「反応点の推測」
 (拡大

 ほとんどの経絡で、左右が揃って
 虚実を示している。
 その中で、右の肺経(橈骨神経の
 支配領域)の緊張が強い。

 C5神経の緊張がある場合、
 肩甲骨内際(附分など)の
 治療が効果的と思う。
 (参考:「鍼通電療法テクニック」
 医道の日本社 P103)



 2回目の「反応点の推測」
 (初診から1週間後)
 (拡大

 右肩はずっと良くなったのだが、
 左肩がこるようになった。
 左右の肺経の虚実の変化を
 みれば、症状の変化が理解
 できる。

 頚部や仙腸関節、頭部の治療
 は、全身に変化をもたらす場合
 が多く、注意が必要である。


■ 考察
身体は、治療(刺激)に応じて変化(対応)するが、変化が大きいか、また、回復が速いかは、人によって、症状によって、それぞれ異なる。今回のようにオーバーシュートをみせる患者は、しかし、変化が速いので、回復も早いことが多い。逆に、なかなか変化をみせず、ゆっくりとしか変わらない患者(症状)もある。患者の満足度もいろいろで、効き過ぎくらいに変化しないと納得しない場合があれば、穏やかでないと怖がる場合もある。
いずれにしろ、こうした状況が予測可能、観察可能で、制御可能なことを、患者に納得してもらうことが大切で、そのためにはこうしたデータを示すのが一番効果的だと考えている。
逆に言えば、患者の訴えだけを聞いて対応すると、何を治療しているのか、病態をどう考えるか、迷路に入り込んで答えがみえなくなってしまう場合がある。この症例のように、C5/C6頚椎間の異常と考えて適切な治療をしたのに、反対側の肩がこるなどといわれたら、測定によってモニタリングしていないと、患者の訴える箇所に鍼を打つだけの、方針の無い治療になってしまう。(実際に、こうした治療に陥り、反省している治療家は少なくないと思う。)


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