経絡の測定 症例集2

データの見方

症例は、「経絡の虚実」画面と、「反応点の推測」画面を用いて説明しています。
これら二つの画面は、同じ測定結果を、三陰三陽の順に並べたり、四肢末梢や背部兪穴の順に並べて、それぞれの規則性を分かりやすくしたものです。
「経絡の虚実」画面では、画面の左半分は全身の虚実を、右半分は経絡ごとの虚実を推測しています。
「反応点の推測」画面では、画面の左半分は四肢・末梢の反応を、右半分は躯幹の兪穴・募穴の反応を推測しています。それぞれの画面で、青い枠は虚傾向を、赤(紫)の枠は実傾向を示します。
虚実の傾向の強さは、100点満点で表示されます(虚傾向はマイナス表示です)。また、虚実の傾向が強いほど、青や赤(紫)の色が濃くなります。枠の上側(左端)の赤や黄色のタブも、傾向の強さを示します。赤いタブが最も傾向が強い経絡を示し、黄色いタブは次に傾向が強い経絡を示しています。

 「経絡の虚実」画面 (拡大

 「反応点の推測」画面 (拡大


症例1 膝痛

− 膀胱経とヒアルロン酸注射 −


■ 概要
50代前半男性。当初は、身体が重く感じ、肩がだるいといって来院。後に、膝痛について訴えた。膝の後ろ側から、ふくらはぎにかけて痛むという。
身長164cm、体重80Kg、恰幅がよく、多くの出張をこなしている。
当初から右膝と左肩の痛みは訴えていたが、主訴は身体の重だるさだった。
■ 経過
初診時の「経絡の虚実」からは、左肺経の虚や冷え、左右の胃経の虚がみられた。このため、水分代謝の改善を促すため、中カン、左右の胃兪、水分、気海などに浅刺と温灸を施した。この他にも、全身の代謝を改善する目的で、左右の肺兪や腎兪に浅刺と温灸を施した。
食生活について問うと、帰宅後、入浴してから、ビールを1リットルほど飲んですぐに就寝するとのこと。まず、この習慣を改善し、ビールを飲んで酔いがさめてから入浴して眠るように説明し、胃が冷えて胃内停水が起こらないように注意を促した。
週に2回のペースで2回通い、身体の重だるさは大きく改善し、胃経の虚もみられなくなった。
しかし、このころから右膝の痛みを訴え始めた。


 初診時の「経絡の虚実」
 ヒアルロン酸注射 6週間後
 (拡大

 左右の胃兪と中?に浅刺と温灸
 また、左側の肺兪に浅刺と温灸、
 左の大腸兪にも温灸を施した。
 胃を冷やさないように、
 ビールの飲み過ぎを注意。
 3日後に再診し、ほぼ同様の
 治療を行った。






 3回目の「経絡の虚実」
 ヒアルロン酸注射 8週間後
 (拡大

 膝の痛みを訴え始める。
 右ひざの裏が痛み、
 膀胱経の左右差が強い。

 このため、右の委中と委陽に
 浅刺と温灸(温灸器)

 また、肝経に虚実が混在している
 ので、行間に円皮鍼、肝兪に温灸
 を施した。



 5回目の「経絡の虚実」
 ヒアルロン酸注射 15週間後
 (拡大

 治療の間隔が開いたこともあり、
 膝の痛みが強まる。
 このときも、右の委中と委陽に
 浅刺と温灸(温灸器)


 SLRテストは陰性で、神経根症状
 は無いと思われるが、膀胱経に
 温灸をして効果を得ている。



■ 考察
興味深いのは、ヒアルロン酸の注射を受けて、膝の痛みが無い時期は、膀胱経の左右差がみられず、膝の痛みとともに、肝経や膀胱経に異常がみられ始めたことである。特に、膀胱経は痛みが増すに連れ、患側が強い冷えを示すようになった。
この患者のように、症状とともに現れた虚実傾向に沿って、兪穴や経絡上に補(おもに温灸)と瀉(おもに鍼治療)を施すと、あっさりと症状が改善される場合が多い
肉付きもよく、はきはきと話すが、実際には虚証で、全身の虚実でも強い虚傾向を示している。
肉付きがよく、がっちりしていると、鍼で筋肉を弛めたくなるが、測定で虚傾向がみられる場合は、温灸で血行を促進して著効を得る場合が多い。

症例2 腰痛、膝痛

− 膀胱兪と腰下肢痛 −


■ 概要
40代前半女性。左の仙腸関節部が痛む。また、左肩がこる。
仰臥位で左足首が内旋/内転し、内返しの状態。また、左足は右足に比べ3cmほど短い。
長い間バレエをして、左足に負担をかけ続けてきたとのこと。身体の左側にこりや痛みが多い。
SLR(下肢挙上)テスト、FNS(大腿神経伸展)テスト、ゲンズレンテスト、ヒブテスト、長母子屈筋・伸筋テストは陰性。
しかし、仙腸関節部の痛みを自覚し、指頭感覚で探ると、左仙腸関節部の開きが大きい(弛緩している)。
■ 経過
この患者は、ご主人に誘われ来院したものの、鍼を怖がり、円皮鍼と温灸のみの治療となった。初診時の「経絡の虚実」をみると、左肺経の強い実傾向、右の脾経の虚、左の膀胱経の強い冷え、左右の胆経の冷えがみられた。
自覚症状では、左の膀胱兪が痛み、また、左肩の天リョウが痛むという。このため、左の天リョウに円皮鍼、左膀胱兪に温灸と円皮鍼、左右の胆兪に温灸と円皮鍼という、最小限の刺激になった。


 初診時の「経絡の虚実」
 (拡大

 左の天リョウに円皮鍼、
 左膀胱兪に温灸と円皮鍼、
 左右の胆兪に温灸と円皮鍼

 を施した。









 2回目の「経絡の虚実」
 (初診から2週間後)
 (拡大
 上半身の異常経絡は右心経のみ。
 下半身の左右差が異常の主体と
 なる。
 鍼になれたため、承山、委陽、
 膀胱兪、天リョウ、天柱に1寸0番で
 置鍼。








 3回目の「経絡の虚実」
 (2回目から4週間後)
 (拡大

 1ヶ月も間隔が開いたため、
 初診時にみられた左肺経の実や、
 全身の冷えが復活しつつある。

 そのほかでは、2回目に顕著に
 なった左の膀胱経、胆経の冷え
 が明確。
 小腸経の左右差は、一時的な
 症状と思われる。


■ 考察
初診時よりも、2回目、3回目のほうが、膀胱経や胆経の異常が強くなっているのは、期待に反すると思われるかもしれない(膀胱経と胆経は仙腸関節に関わる)。
しかし、治療が進むごとに異常を示す経絡が少なくなっていて(初診時から順に、異常を示す数が、13>8>8と減っている)、このため、もともとあった異常だけが残り、明確になったと考えたほうが分かりやすい。実際に、治療効果は得られていて、患者の満足度は高い(補足を参照のこと)。
このように、経絡を測定し、結果に従って治療すると、その患者特有の異常個所が浮かび上がることが多い。
基本パターンが把握できるため、例えば3回目の小腸経の左右差のような一時的な異常がすぐに目にとまり、患者が話していない症状を指摘できるため、信頼獲得に大いに役立っている
■ 補足
この症例については、参考のために測定値のレーダーチャート(バランスが取れると、円形に近づくグラフ)も添付する。
寒熱を示すレーダーチャートは、初診時は大きく歪んでいる(画面右側の下半身のバランスを示すグラフが、大きく歪んでいる)が、2回目には大きく改善されている。
この二つの比較から、初診時に強い傾向を示した経絡の兪穴に円皮鍼と温灸を施すだけで、全身のバランスが劇的に改善していることが容易に理解できる。また、2回目以降をみると、左仙腸関節の痛みと関係するだろう膀胱経と胆経だけが冷えたままで、改善しがたい本治の対象であることが分かる。
そして、2回目から4週間も過ぎた3回目には、初診時にみられた歪みが復活しつつあることも理解できる。
こうしたグラフを見せるだけで、多くの患者が定期的な治療=調整の必要性を信じて疑わなくなる
こうした測定結果は、鍼灸師にとって二つの意味を持つと思われる。
一つは、経絡が存在し、測定も可能であり、円皮鍼や温灸だけでも、全身の自律神経を調整しうる症例がある、ということ。もう一つは、経絡の虚実は複雑で正確な把握が難しい、ということだと考えられる。

症例3 腰痛

− 症状の改善と体質の改善−


■ 概要
30代後半女性。左腰下肢の痛みで来院。
左側でラセーグ兆候(SLR(下肢挙上)テスト)が陽性。しかし、FNS(大腿神経伸展)テスト、ゲンズレンテスト、ヒブテスト、長母子屈筋・伸筋テストは陰性。
自転車で子どもを前に乗せていて転び、腕をついて左肩を後上方向に大きく反らしてから、左の肩こりがひどい。
6年前に子宮外妊娠で、右側の腹部に手術をした経験がある。
手足の指先の冷え、後頭部の頭痛。寝つきが悪く、夢が多く、眠った気がしない。
■ 経過
この患者の初診時のデータは、右側に虚傾向の経絡が揃い、左の腰下肢痛と関係ないものに思えた。
このため、右の厥陰兪、腎兪、胆兪に浅刺(0番で横刺)と温灸を施した。また、症状の改善を狙って、坐骨神経根の高さにあたる大腸兪、関元兪、小腸兪、膀胱兪(いずれも左側)にも置鍼(0番で2〜3cm)した。
全身的に冷えがあり、下半身の冷えもあって虚証と思えたので、いずれも0番鍼を用いた。
症状と直接関係の無い部分に治療をすることは、患者の理解を得づらいものである。しかし、測定結果を踏まえて、身体の左右のバランスが悪いと説明すると、安心して治療を受けてくれる。


 初診時の「経絡の虚実」
 (拡大

 左右の肺経の実と、右側の
 心包経、腎経、胆経の虚が強い。
 全身と下半身の冷えもみられる。

 しかし、左腰下肢痛に関係すると
 思えるような経絡の異常は
 ほとんど無いといっていい。






 2回目の「経絡の虚実」
 (初診から1週間後)
 (拡大

 初診時とは大きく異なる。

 虚傾向が右側だけに片寄る傾向
 はなくなった。
 左腰痛の原因と思える膀胱経の
 冷えが浮かび上がる。

 左膀胱兪に置鍼(0番で2〜3cm)
 と温灸を施す。



 3回目の「経絡の虚実」
 (2回目から2週後)
 (拡大

 左膀胱経の冷えは弱まったが、
 右膀胱経の熱が現れた。
 膀胱兪のバランスが悪いらしい。

 左の腰痛は改善できたが、
 そのほかでは変動が多く、
 訴えも一定しない。
 データと照らし合わせ、
 一つずつ対応することで、
 だんだんと症状を減らしていく。

■ 考察
全身や下半身の冷えが改善せず、疲労感を訴えることが多かったので、体力を補う当帰(肝血を補う)や地黄(腎精を補う)などが入った漢方薬を使うのも良いかもしれませんね、と説明していたが、後日、漢方医に抑肝散(当帰が入った、虚弱な体質で神経がたかぶるものの薬)をもらうようになってとても元気が出た、と嬉しそうに話していた。
このような場合、局所治療だけでは症状が取れず、体質や体力の改善と合わせた治療が功を奏する場合が多い。
この症例では、初回から腰下肢痛の改善がみられ、定期的に通院していたが、本人が元気になったと自覚したのは、漢方薬で体力を増強した後だったように思う。
また、初診時のように、左右いずれかに片寄って虚・実がみられる場合は、いわゆる自律神経失調症のような、本人も表現できないような不調がみられることが多い。特定の経絡だけに左右差が強い場合について、赤羽幸兵衛先生が「経絡の変動」として説明しているが、これが全身的にみられると、訴えが多様で、しかも深刻なことが多いと感じている。

症例4 膝痛、五十肩

− 一度だけの温灸で、膝痛が霧散 −


■ 概要
60代後半男性。当初は右膝痛のみを訴えていたが、後に右五十肩が主訴となった(当初から五十肩もあったと考えられる)。
膝蓋周辺、特に膝蓋靭帯が痛み、階段を下りることができない、と話していた。
膝蓋跳動はなく、ホッファ病やタナ障害と思われるような硬結・圧通もない。スポーツによる障害や、外傷の経歴も無い。
立位で、右肩が大きく下がり、身体全体が右に片寄っているが、本人の自覚はなかった。
■ 経過
一度の治療で、あっさりと改善した。近所で仕事をしていることもあり、ばったりと顔を合わせると、破顔一笑して「治った!痛くない!有り難う!」と大声でお礼を言っていた。
初診時の測定で、左右の肺経と脾経(手足の太陰)に冷えと虚がみられ、強い虚傾向となっている。また、右の膀胱経も冷えと虚がみられ、強い虚傾向となっていた。
このため、左右の肺経と脾経の治療を目標に、肺兪と脾兪に浅刺(0番で横刺)と温灸を施し、同様の治療を右の膀胱兪と内外膝眼穴に施した。また、右胆経の実傾向が見られたので、圧痛のあった丘墟と腸脛靭帯に置鍼(0番でゆっくりと刺入し、響きを得られたら置鍼)を行った。
(2回目のときに、右の三焦経の虚が強く出ている。右肩には、この三焦経も関わっていたと考えられるが、この時点では右肩痛について訴えが無かったため、積極的に治療していなかった。)


 初診時の「経絡の虚実」
 (拡大

 左右の肺経と脾経、右の膀胱経
 に、強い虚傾向がみられる。
 また、右の胆経に強い緊張が
 みられる。
 大腿四頭筋が弱まり、
 腸脛靭帯がこわばる典型例

 考えられる。
 





 2回目の「経絡の虚実」
 (初診から1週間後)
 (拡大

 この時点で、痛みはほとんど
 無くなっている。

 初診時とほぼ同じ傾向だが、
 虚傾向が弱くなっている。

 また、右の膀胱経や胆経の
 異常は消えている





 3回目の「経絡の虚実」
 (2回目から2週間後)
 (拡大

 強い虚実を示す経絡(表示の
 上に赤いタブがついたもの)は、
 左の肺経のみとなっている。

 そのほかに弱い傾向(表示の
 上に黄色いタブがついたもの)
 がみられるが、2回目までの
 特徴は霧散している。



■ 考察
膝の痛みは大腿四頭筋の萎縮・弱化による、というのは、一般的な知識である。
しかし、なぜ大腿四頭筋が萎縮・弱化するか?という問題は、あまり語られていない。大腿神経(L2〜L4神経根)が問題とは思えないケースも多く、説明が難しい。
この例のように、肺兪や脾兪に浅刺と温灸を施すことで、局所治療のみでは望めないような、劇的な効果が得られると、筋の萎縮はもっと高次(高い位置)で起こっているとも考えられる。
また、膝痛で腸脛靭帯がこわばる例は少なくないが、今回の例のように「脾経(大腿四頭筋)の弱化を腸脛靭帯が支えている」と思える例は多く、脾経の虚を補わないまま腸脛靭帯だけに刺鍼して脱力させると、脚全体が無力化してしまうと思われる。
膝の治療をして、力が入らなくなり、患者さんがますます歩けなくなった、といった失敗談を耳にすることがあるが、今回のような虚実パターンなのだろうな、と想像している。
(肺経と脾経が関わる膝痛については、次の症例も参照のこと。)

症例5 膝痛

− 膝痛と脾経と胃経の両虚 −


■ 概要
60代後半男性。
膝蓋周辺、特に膝蓋靭帯が痛み、階段を下りることができない、と話していた。症例4とほぼ同様の症状だが、この例では五十肩はなく、立位での左右の片寄りも小さかった。
症例4と同様に、膝蓋跳動はなく、ホッファ病やタナ障害と思われるような硬結・圧通もない。スポーツによる障害や、外傷の経歴も無い。
■ 経過
こちらも一度の治療で、あっさりと改善した。
治療の翌日に顔をあわせると、前日までつけていた痛み防止のサポーターを今日は着けていない、ほらこのとおり、とズボンを巻くって膝をみせてくれた。それ以来、来院していない。
左右の脾兪、胃兪、右の肺兪、右の内外膝眼穴に浅刺(0番で横刺)と温灸、左行間と右キョウ谿に円皮鍼を施した


 初診時の「経絡の虚実」
 (拡大

 左右の脾経と胃経に強い
 虚や冷えがみられる。
 この他では、右肺経の冷えと
 左肝経の緊張が強い。

 左足肝経の緊張を弛めるため、
 行間に円皮鍼を貼ろうとすると、
 「そこはいつも、誰かに触られて
 いるような変な感じがする」

 話していた。



 初診時の「反応点の推測」
 (拡大

 左足内側(肝経)と、右足外側
 (胆経)で強い緊張がみられる。
 右膝が痛むのに、体重が右側に
 片寄っている
ことを示している。
 体重が片寄っていることが原因で
 膝が痛むのか、膝が痛むので
 (外側に)体重が片寄るのかは、
 不明である。
 しかし、経絡のバランスを修正
 すれば症状は消える



■ 考察
症例4と症例5でみられたように、肺経と脾経が揃って虚している場合に、両方を治療して劇的な効果を得られた経験がいくつもある。
このように、手足の太陰、少陰、厥陰が揃って虚実(特に虚)を示す例は少なくなく、また、手足の三陰三陽に当たる経絡が揃って虚や実を示している場合、両方に治療しないと効果が十分に得られない場合が多い。
こうした規則性を、皮膚の測定を通じて体験しているが、体性神経(神経線維の流れ)からは、なかなか説明できないと思う。
症例3の初診時の「経絡の虚実」のように、身体全体(の指先)で、皮膚の間質液の量や質に片寄りがある、というのであれば、それは(生体内環境を管理する)自律神経の緊張が身体の左右で片寄っていることに直結しているので、自律神経を統括する脳の緊張が左右で片寄りを持っている、と仮定できるかもしれない(しかし、あくまで仮定である)。
ここで紹介しているのは、仮定や学説ではない。このようなデータのときに、このような治療で(劇的な)効果を得た(得ている)、という具体的で実用可能なノウハウである。
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