経絡の測定 症例集1

データの見方

症例は、「経絡の虚実」画面と、「反応点の推測」画面を用いて説明しています。
これら二つの画面は、同じ測定結果を、三陰三陽の順に並べたり、四肢末梢や背部兪穴の順に並べて、それぞれの規則性を分かりやすくしたものです。
「経絡の虚実」画面では、画面の左半分は全身の虚実を、右半分は経絡ごとの虚実を推測しています。
「反応点の推測」画面では、画面の左半分は四肢・末梢の反応を、右半分は躯幹の兪穴・募穴の反応を推測しています。それぞれの画面で、青い枠は虚傾向を、赤(紫)の枠は実傾向を示します。
虚実の傾向の強さは、100点満点で表示されます(虚傾向はマイナス表示です)。また、虚実の傾向が強いほど、青や赤(紫)の色が濃くなります。枠の上側(左端)の赤や黄色のタブも、傾向の強さを示します。赤いタブが最も傾向が強い経絡を示し、黄色いタブは次に傾向が強い経絡を示しています。

 「経絡の虚実」画面 (拡大

 「反応点の推測」画面 (拡大


症例1 アトピー性皮膚炎

− 大腸経の虚とアトピー−


■ 概要
20代後半男性。大学に入ってすぐに発症。ステロイド軟膏(なんこう)の使用が続いている。
優秀なアスリートで、筋肉質な体型だが、冷えには弱く、明け方に空気が冷たくなると喘息のように咳き込んで目が覚めるという。
肘や膝などの関節部分に乾燥はみられない。大腿や腕、背中などに、あせものようにぽつっとした小水疱ができては壊れている。日本皮膚科学会が定義する湿疹三角で言えば、小水疱>結痂、を繰り返している。
 (拡大
■ 経過
初診時の「反応点の推測」では、左右の大腸経の虚と肝経の緊張がみられる。この他では、右の心包経に冷えがみられる(以上は、傾向の強い赤いタブがついた経絡)。
このため、行間に円皮鍼、大腸兪・天枢に浅刺と温灸を施したところ、「身体の良いスイッチが入った(本人の表現)」とのことで、翌週には皮膚の症状が大きく改善していた。完全には治りきらないが、ステロイド剤の使用量を大幅に減少できるので、半年以上経過した現在も週1回の治療を継続している。当初は施術中に咳き込んでいたが、治療の継続とともに呼吸が楽になり、一ヶ月ほどで咳き込むことが無くなった。こうした体調維持のためにも、治療を継続している。


 初診時の「反応点の推測」
 (拡大

 大腸経が虚、肝経が緊張
 この組み合わせでは、L4/L5椎間
 に異常がある場合が多い
 足の拇指(肝経の井穴)の緊張は
 体性神経から説明できるが、
 手の人差し指(商陽穴)で虚が
 みられると、大腸兪(L4/L5椎間)
 に異常がみられるのは、経絡的な
 反応といえる。

■ 考察
アトピー性皮膚炎は、肺経、腎経、肝経など、さまざまな経絡が関係し、治療方針が立てづらい。
この症例では、大腸経の虚が強いデータとなり、咳き込みやすいことも考慮し、大腸経の虚が問題と考えた。視診・触診でも、大腸兪の高さで皮膚の黒ずみが強く、異常があると推測できた。
初診時は、どんなに詳細に聞こうとしても、アトピー性皮膚炎以外の症状について話が出てこなかった。
しかし、大腸兪(腰部)に治療をして、皮膚の状態だけでなく、呼吸器の問題が改善されてくると、夜に冷え込むと喘息のように咳き込むことや、高校生のころに腰痛と坐骨神経痛を起こし、左足にテーピングを施していたことを打ち明けてくれた。
もともと呼吸器が弱い体質だったが、成長期に激しいトレーニングでL4/L5椎間(もしくはL4腰椎そのものか?)を傷め、体質に影響を与えたと考えられる。
■ 補足1
坐骨神経痛がある場合、通常では、アキレス腱反射や、触覚障害、長拇指屈筋・伸筋など多数の検査で、L4/L5椎間、L5/S1椎間(のいずれ)に異常があるか調べられる。また、その結果から、 L4/L5椎間にヘルニアがあると、一つ下のL5神経(L5/S1椎間から出る)が圧迫されるなど、解剖学的な知識を用いて、異常個所を推測することになる。
■ 補足2
皮膚の異常を測定すれば、どの椎間が弱って、どの神経根(末梢)が異常緊張しているか、短時間(3分程度)で多くの情報が得られる。
実際の臨床では、上に挙げたように末梢(親指)で神経緊張がみられるヘルニアなどの神経根症状もあれば、末梢(親指)で緊張がみられない椎間関節性の腰痛もある。同じ大腸兪の虚傾向であっても、組み合わせによって、推測できる病態が異なる。
ヘルニアなど椎間の異常が頻出する部位は、頚部も腰部も指先に神経が伸びているので、指先を測定する臨床的な意義は大きい。
■ 補足3
坐骨神経痛と思える患者で、神経根部位、もしくは、圧迫部位にどのような治療を施すかは、意見が分かれる。
昨今の専門書では、椎間関節に向けて太く深い鍼を刺せばよい、というものが多い。しかし、上の例のように大腸経(大腸兪)が虚している場合は、むしろ、浅刺と温灸で血行を促したほうが良い例が多いと感じている(深い鍼を刺すと、さらに力が抜けてしまうためか、症状が悪化する場合も散見される)。
異常個所を見極めることと、異常内容を見極めることは別である。
上の例でいえば、親指外側の緊張からL5神経とL4/L5椎間が異常個所と推測できるが、大腸経の虚傾向から異常内容は筋の無力化と推測され、血行を改善するなど補う治療が適していると推測される。
■ 補足4
デルマトーム図をみると、足の親指はL4神経(L4/L5椎間から出る)の支配となっていて、L5神経(L5/S1椎間から出る)の支配ではない、というご指摘をいただいた。
たしかに、最近の書籍では親指全体をL4支配としているものが多い。
しかし、デルマトームの研究を行ったKeegan&Garrett(1948)、Foerster(1933)、Hymaker&Woodfall(1956)、Hansen&Schliack(1962)のいずれの説でも、足の拇指の外側はL5神経支配となっている。
デルマトームに詳しい伊藤樹史先生(東京医科大学名誉教授、日本良導絡自律神経学会会長)が紹介しているデルマトーム図でも、足の拇指はL5神経支配となっている。
しかし、これらの説はどれも若干の違いをみせていて、特に後頚部と腰仙部、四肢の支配については一定していない。
この中で、最も整然とした支配分布のKeegan説が、今日の主流となっているように思えるが、Keegan説のオリジナルでは、足の拇指の内側半分はL4神経支配、外側半分はL5神経支配となっている。このことは、肝経の井穴(太敦)が、拇指の中心にあるか、拇指の外側にあるか、説が分かれていることに符合するように思えて、大変興味深い。
実際には、どの神経根がどの範囲まで支配するか?は、個々人によって若干の違いがあると考えている。
だからこそ、指先で皮膚の状態を測定し、実際にどこが緊張しているかを、きちんと調べることが有用だと考えている。
■ 補足5
この例のように、運動器の改善と体質の改善が同時に起こることは、少なくないと感じている。

症例2 アトピー性皮膚炎

− 腎虚証の改善 −


■ 概要
30代前半女性。進学のため上京して発症。
全身的に乾燥が強く、肘や膝の関節内側、首の周りの湿疹が顕著な、典型的なアトピー性皮膚炎。顔面部の発赤=のぼせ傾向が強く、大人のアトピーの典型例ともいえる症状。日本皮膚科学会が定義する湿疹三角で言えば、紅斑>丘疹>落屑、を繰り返している。
 (拡大
■ 経過
初診時の「経絡の虚実」jから、腎経、膀胱経の左右差が強く、腎虚傾向がみられた。腎虚の場合、発汗・排泄による電解質の調整が上手くいかなくなるようで、全身が虚傾向=間質液の電解質不足を示す場合が多いが、この例でも「経絡の虚実」から分かるように、全身で強い虚傾向を示している。
治療としては、右の腎兪・肓兪、左の膀胱兪と中極に浅刺と温灸を施した。また、右の膀胱経が実していて、硬結も強かったので、右の膀胱兪には仙腸関節に刺入するように、1寸3分3番で3cmほど、斜め外に向けて刺入・置鍼したあと、円皮鍼を施した。
2週間に1回のペースで半年ほど治療し、データで腎経の虚傾向が改善されると、アトピー性皮膚炎の症状も改善された。


 初診時の「経絡の虚実」
 (拡大

 左の膀胱経と右の腎経の虚・寒
 
 膀胱経と腎経で、反対側に虚や
 冷えが現れることは多い。
 








 2回目の「経絡の虚実」
 (拡大

 右側の胆経の虚・寒だけが残った
 
 身体全体の偏りがある場合、
 片側の胆経に集中して虚実が
 現れる例をよくみる。

 こうした虚や冷えは、灸頭鍼よりも
 浅刺(横刺)+温灸で改善する
 場合が多いと感じている。

■ 考察
腎経の虚傾向が改善された後は、「経絡の虚実」で右胆経の虚傾向が強く現れるようになった。視診・触診でも、右胆兪の部分だけ皮膚の色が黒ずんだままで、疲れるとその部分が重だるくなると本人が語っていた。
この症例では、身体の左右差が大きな特徴となっている。膀胱経・腎経に現れていた左右差を取り除いた結果、胆経の左右差に移行したようすが、データからはっきりと分かる。
腎経と膀胱経は、この例のように、左右の反対側で虚傾向を示すことが多く、左右の虚実に合わせて治療すると効果が得られやすい。測定をせずに左右いずれが悪いかを確信を持って治療することは、可能と思えるが困難とも思える。
■ 補足1
井穴の測定では、足の第五指(小指)の内側を腎経とし、外側を膀胱経としている。
デルマトームに従えば、どの説でみても、足の第五指は全体的にS1神経の支配で、拇指のように内側/外側でデルマトームが分かれる説は無い。
しかし、この例の右の腎経(間質液不足となっている)と膀胱経(間質液過剰となっている)のように、間質液の量や質が異なる場合がある(しかも、背部兪穴への刺激で是正できる)。
多くの場合、緊張(皮脂分泌の過剰)の情報は、神経根となる部位との関連で説明がつくように思える。
しかし、虚実(間質液のイオンの過不足)や寒熱(間質液の量の過不足)は、神経根となる部位との関連では説明が難しく、むしろ経絡と背部兪穴として知られる経験則によく符合する。
実際、この例のように、背部兪穴への刺激で、指先での測定値のアンバランスを是正できている。
■ 補足2
この例のように、左の膀胱経と右の腎経が虚している場合、(1)まず左膀胱兪(仙腸関節)が弱いために下位腰椎から上が右側に片寄り、(2)上半身のバランスを保つため腎兪(L2/L3椎間)の高さで左に側屈している例を散見する(いわゆる、左患側で左側凸)。結果、右膀胱兪(仙腸関節)に負担がかかることになる。
■ 補足3
こうした例で、右の膝蓋腱反射が減弱していた例を、過去に数例みている。右のL2/L3椎間やL3/L4椎間に何らかの問題があり、神経根の圧迫を避けるために右側のL2/L3椎間を広げようとするため、上記のような姿勢になっていることも予想できる。
ただし、これはあくまで推測であって、確かめようが無い。
上の例でいえば、触診によって、L2/L3棘突起間の高さで、右側の脊柱起立筋が無力化し細く感じるが、異常個所がL2レベルまで高くなっていくと、その原因が何かを断定することは難しい。
■ 補足4
そもそも、右側のL2/L3棘突起間の高さで脊柱起立筋が無力化していても、右足第五指の間質液の量や質が異常なこととの関連を、末梢神経の支配領域からは説明しづらい。経絡と兪穴という「経験則」を知っていて、このように測定器で井穴の異常を詳細に把握できても、発現機序までは説明できない。
■ 補足5
「補足2」と「補足3」を合わせて考えれば、こうした例では、左は坐骨神経、右は大腿神経の障害があり、どちらも違ったレベルで患側という場合がある。複雑な症状なので、絞扼されている神経根を特定できるか?、そこに灸頭鍼や鍼通電をすれば治るのか?というと、困難だろうと思われる。
このようなデータが実際に得られるのであれば、経絡や背部兪穴として知られる経験則を活用したほうが、効率的に治療効果が得られると考えている。
虚実を測定できれば、経験則は活用できる。なぜこうした規則性があるか?は説明できないが、虚実と呼ばれる現象が、皮膚の間質液に関わることは、日々の治療経験から確信している。

症例3 上背部痛 雨の日の不調

− 一つの経絡に虚と実がみられる −


■ 概要
20代前半女性。2年ほど前にスポーツをやめてから、上背部が重だるく、雨の日に不調になるとのこと。
初診時の「経絡の虚実」では、右の脾経に冷えと実・緊張がみられた。右脾経は、代謝の低下(正気の虚)と老廃物の蓄積(邪気の実)が同時にみられる、複雑な状況と思われた。また腎経では、左右ともに冷えと虚がみられ、強い虚傾向と考えられた。
腎経で左右両虚がみられる他は、虚傾向は右半身に偏っている。
■ 経過
初診時の「反応点の推測」をみると、右側の脾経で四肢の実傾向、兪穴・募穴の虚傾向が推測される。実際に、右脾経の公孫、血海、に著明な硬結がみられたので置鍼した。また、右脾兪に浅刺し、左右の腎兪・肓兪に浅刺と温灸を施した結果、背中の重だるさと雨の日の不調が改善された。
週1回のペースで3回治療すると、「経絡の虚実」で左右の偏りが大きく改善され、最初に訴えていた不調は大きく改善された。ただし、腎経の虚が強いので、今しばらく治療が必要と思われる。


 初診時の「経絡の虚実」
 (拡大

 右の脾経に、冷えと実と緊張が
 入り乱れている

 
 こうした虚傾向・実傾向が混在
 する経絡は症状が強い場合が
 多く、主訴に関わる場合が多い。







 2回目の「経絡の虚実」
 (拡大

 左右の腎経、心包経の虚のみ
 
 腎臓が悪いと、心臓に負担が
 かかることは、現代医学でも、
 伝統医学でも指摘されている。

 腎経に虚傾向がみられるの場合、
 このように心経や心包経にも虚が
 みられる例をよくみかける。



■ 考察
右脾兪に置鍼すると、奥の筋肉が痒いといい、居心地が悪そうにしていた。会話の中で、だいぶ前から痒い、という表現が出たので、いつくらいから?と訊いてみると、幼いころからずっとだと答えた。右脾経の異常を指摘しなければ、本人からの説明はもっと遅くなったと思う。こうした長年の身体のクセが、数回の治療で大きく改善されるのは大変興味深い。
症状が改善された後も、右の膀胱経に沿って筋肉が張っていた。天柱や崑崙に強い硬結があり、いずれを押しても脾兪の奥が痒くなるという。右膀胱経に沿って指頭感覚で異常を探し、右仙腸関節部がゆるいことを見つけ、これに1寸6分3番で2/3ほど刺入したところ、天柱と崑崙の硬結が霧散した。経絡(経筋というべきか?)の反応だが、こうした運動器のみの異常は、患者の主訴とは直接関係なかった点が興味深い。

症例4 中背部痛

− 著明な虚の反応 −


■ 概要
30代後半女性。祖母・母が若くして膵臓がんで病死している。左中背部に痛みがあり、家族歴からひどく心配して気持ちが落ち込んでいた。飲酒は少なく、身長・体重ともに平均的。消化器への負担となるような偏食は無く、摂食障害も無い。
■ 経過
初診時の「反応点の推測」では、右胆経に強い冷えがある。左右の脾経に弱い虚傾向が見られるが、胆経の冷えが突出して強い。
実際に視診・触診すると、右胆兪に著明な陥凹があった。このため、浅刺と温灸を施した。3日目に電話があり、よく眠れるようになった、食事も美味しくなった、気のせいだろうか?と訊いてきた。気のせいでも、元気ならそれでよいと話しておいた(インテリな患者さんに多いが、自分の感覚だけでは気のせいではないかと疑い、治療効果を認めない場合がある。こういうときに、データを示すと納得し、信頼してくれる傾向が強い。)
翌週の再診時には陥凹は霧散していた。自覚症状でも背部痛がなくなり、その後の再発は無い。


 初診時の「反応点の推測」
 (拡大

 右の胆経に、強い冷え

 異常(虚実)を示す経絡は少ない
 が、胆経の冷えが突出している。

 このように極端なデータの場合は、
 指先の皮膚に異常(ささくれなど)
 がないか測定後に確認して、
 データの信頼性を確認している。


■ 考察
背部は大きなニキビができやすいため、大きな痕が残っている場合も少なくない。
この患者の右胆兪の陥凹も、ペンを突き刺したかのような、直径10mm程度、深さ2mmほどと思えるような、大きな穴だった。
穴の中の皮膚は、その部分だけ年寄りの肌のようにシワがより、周囲との差異が著明だったが、著明すぎて怪我やニキビの痕とも思えた。膵臓がんの家系だと最初に言われて、脾経に異常が出るのでは?と決め付けてしまっていたので、データで右胆経が強い冷えを示していなければ、単なる怪我の痕として見落としていたかもしれない。
皮膚の変化が、反応なのか、単なる傷痕なのか、予測が立つだけでも、臨床での精神的負担は大きく軽減すると思う。
鍼灸、それも体質の治療は、伝承や経験を「信じて」治療するが、検査装置が無いため、「本当だろうか?」という疑問が常に心に浮かぶ。皮膚の変化を測定すると、自信を持って治療できることが多い。
(陥凹については、次の症例も参照のこと。)

症例5 群発性頭痛

− 経絡の虚実が入り乱れている症例 −


■ 概要
40代前半男性。栄転により新たな職場環境に異動したあと3ヶ月ほどして、緊張が解けたところで発症。症状が強いらしく、発作がおさまるなら何度でも通う、と初診時に話していた。複数の医師の診察を受けたが改善せず、また、処方された薬を飲んでもたいして効かず、発作時には生きた心地がしないとのこと。飲酒も控え、発作が起きないように気をつけているが、就寝時に発作が起き、4時ごろに目が覚めるという。
■ 経過
初診時の「反応点の推測」から、肝経・大腸経などで、左右に分かれて、虚実・寒熱・緊張が入り乱れている様子がわかる。また、「経絡の虚実」の画面左側の全身の虚実から、上半身で虚(電解質の不足)と熱(間質液過剰)が推測できる。このことから、頭部の間質液が、薄まったまま過多になっている=頭部が浮腫んでいる、と想像できる。
複雑で、測定機器が無ければ理解しがたい症例の典型といえる。
スポーツマン体型でがっしりしているが、姿勢を見ると身体全体が右に偏り、右半身だけ凹円背となっている。右腰(大腸兪)付近に負担がかかっていると推測された。
実側の兪穴(硬結部)に下方向へ1寸0番で斜刺・置鍼することで、肝経と大腸経の左右差を是正し、また、頭部の熱を取るため圧痛点に1寸0番で置鍼したところ、徐々に症状は治まっていった。頭部への置鍼は、予想外の悪化を避けるため初回は天柱に1寸6分3番で1/2ほど刺して置鍼するのみとし、肩から項のこりを取り除いた。2回目には五処・曲差・睛明に1寸0番で置鍼した。中でも、五処は浮腫がみられ、圧すると痛がり、刺すと心地よいと話していた。
週に2〜3回の治療で2週間施術すると、「反応点の推測」で強い左右差は右心包経の緊張を残すのみとなり、本来の体質と思える肺経・大腸経の虚が残るようになった。


 初診時の「反応点の推測」
 (拡大

 異常(虚実)を示す経絡は少ない
 が、肝経や大腸経で、左右の
 虚実が反転している


 総じて、上半身は左側が虚、
 下半身は右側が虚となっている。






 2週後の「反応点の推測」
 (拡大

 右の胆経に、強い冷え

 左右差はほとんど無くなり、
 肺経の冷えと大腸経の虚だけ
 が残っている。

 唯一の請った右心包経の
 兪穴(厥陰兪)に、強い陥凹
 がみられた。


■ 考察
データから、左右差が多いことを確かめ、立ち姿でも右半身に体重が偏り負担がかかっている様子から、頭痛は右側に多いですね?と訊くと、そのとおりだと驚きながら答え、初診だったがすっかり信用してくれるようになった。
ところで、この患者は突然に来なくなった。だんだん改善していた2週目に、右の厥陰兪に直径5mmほどの大きな陥凹が現れ、そこに治療したところ、「薬を飲んだら発作が納まるようになった」といって来なくなってしまった(もともと多忙な方で、来院も夜の8時を過ぎることが多かった)。
それまで無かった陥凹が突然に現れたので、見落としていたかと思い、この凹みは昔からあるか?と訊いたが、覚えはないという。精神的な疲労が厥陰兪に現れるのは古典のとおりだと思い、これに温灸(八分灸)を施したところ、上述のとおり治ったからと言って来院しなくなった。測定結果の「反応点の推測」では、右の心包経に強い緊張がみられていた。このため、経絡の反応だと考えられる。
経絡の乱れを整え、頭部の反応点(偏頭痛の教科書的な治療点)と併せて治療した結果、病が厥陰兪に追い込まれて、これを取り除いたところ快癒した、という流れだったと考えられる。
 症例集1 経絡とは? ブログ 治療の実際 経絡の虚実 測定の方法 経絡図